セシウム137を毎日摂取したときの被曝線量率

H23/10/23

セシウム137を毎日摂取し続けたときの蓄積量」を前回計算した。

そこで興味があるのは、放射性物質を摂取したときにどれだけ被曝するのかということだ。内部被曝に対して用いられるものが預託実効線量というものであり、これは50年間の被曝を積み重ねたものを指す。しかしながらこれは1回の摂取に対する評価であり、前回の議論のように毎日摂取した場合にはそのまま使えない。

もちろん摂取し続けるというケースは考えにくいが、個人的に被曝線量を知りたくなったので計算してみた。

注意:Internet Explorer 8 の場合、描画に時間がかかるので我慢すること。

結論

手っ取り早く知りたい人のために、どんな結論を得たのか予め示しておく。

セシウム137を一定量、毎日2年間摂取し続けたとする。このときの被曝線量率は以下のようになる。

経過年 被曝線量率
1年目 3.5 μSv/Bq/年
2年目 4.7 μSv/Bq/年
3年目 1.3 μSv/Bq/年
4年目 3.5×10-2 μSv/Bq/年
5年目 9.3×10-4 μSv/Bq/年
積算 9.5 μSv/Bq/50年

被曝線量率

これは例えば毎日 10 Bq ずつ摂取し続けた場合、最初の年は 35 μSv で、2年目に 47 μSv、50年の累積で 95 μSv 被曝することを意味する。

預託実効線量

日本の環境放射能と放射線」の「食品から受ける放射線量(預託実効線量)」によると

人体の組織に取り込まれた放射性物質は、その半減期および代謝による体外排出により、時間とともに減少します。

食品摂取後長期間にわたって人体が受ける内部被ばくの影響を評価する基準として、摂取後50年間に受ける線量を最初の1年で受けた(預託)として計算される「預託実効線量」が用いられます。

とある。(サイト [2] なども参照。) つまり摂取してから50年間の被曝量を累積しているので、以下の図の面積を求めていることになる。

セシウム137の預託実効線量

しかし、放射性物質を含む食品を毎日摂取し続けた場合、蓄積量は

毎日摂取し続けたときの蓄積量

のような形になり[1]、連日の摂取を考慮する必要がある。

被曝量の計算

預託実効被曝線量

寿命 $\tau$、経過時間 $t$ とすると、連続摂取しない場合の被曝線量率の減衰は \[ e^{-t/\tau} \] に比例する。ここで寿命 $\tau$ と半減期 $T$ の間には \[ e^{-1/\tau} = \left(\frac{1}{2}\right)^{1/T} \] という関係がある。

摂取してから期間 $\sigma$ (=50年) の間の被曝線量 $E(\sigma)$ は、適当な係数 $k$ として \[ E(\sigma) = k\int_{0}^{\sigma}e^{-t/\tau}dt = k\tau (1-e^{-\sigma/\tau}) \]

1日の被曝線量

1日の被曝線量 $E$ は、 \[\begin{align*} E &= k\int_{0}^{1}e^{-t/\tau}dt = k\tau (1-e^{-1/\tau})\\ &= E(\sigma)\frac{1-e^{-1/\tau}}{1-e^{-\sigma/\tau}}\\ &= E(\sigma)\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{1/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{\sigma/T}} \end{align*}\]

1日の摂取線量 $a$、初日を 0 日としたときの経過日数 $n$ の時の蓄積量 $S_n$ は \[ S_n = a\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{(n+1)/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{1/T}} \] で与えられる[1]ので、実効線量係数を $\xi$ とすれば、経過日数 $n$ の預託実効線量 $E_n(\sigma)$ は \[ E_n(\sigma) = \xi S_n = a\xi\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{(n+1)/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{1/T}} \] よって経過日数 $n$ における1日の被曝線量 $E_n$ \[ E_n = a\xi\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{(n+1)/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{\sigma/T}} \] が得られる。

セシウム137の場合

文字に具体的な数値を代入していこう。$T$ = 70 [日]、$\sigma$ = 50 [年] = 1.8×104 [日][3][4]、$\xi$ = 1.3×10-5 [mSv/Bq][3][4]より \[ E_n / a = 1.3\times 10^{-2}\left\{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{(n+1)/70}\right\}\ \ \text{[μSv/Bq/日]} \]

2年間毎日摂取する場合、$n$ は 0 から 729 までの値をとるので、 $E_n/a$ の値は \[ 1.3\times 10^{-4}\ \ \sim\ \ 1.3\times 10^{-2}\ \ \text{[μSv/Bq/日]} \]

年間被曝線量

1回の摂取量 $a$ あたりの1日被曝線量 $E_n/a$ は簡単な数列になっている。従って数列の和をとれば簡単に年間の被曝線量が求まる。

こうして初年と2年目の被曝線量率は

  被曝線量率
初年 3.5 μSv/Bq/年
2年目 4.7 μSv/Bq/年

連続摂取がない場合の年間被曝線量

毎日2年間摂取し続けた後の年間被曝量も求めておこう。3年目以降をみるので、$Y$ を 365 [日] として、$n$ は $2Y$, $3Y$, $\cdots$ が入る。 \[\begin{align*} k\int_{n}^{n+Y} e^{-(t-2Y)/\tau} dt &= k\tau e^{-(n-2Y)/\tau}(1-e^{-Y/\tau}) \\ &= E(\sigma)e^{-(n-2Y)/\tau} \frac{1-e^{-Y/\tau}}{1-e^{-\sigma/\tau}} \\ &= E(\sigma)\left(\frac{1}{2}\right)^{(n-2Y)/T} \frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{Y/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{\sigma /T}} \end{align*}\]

$E(\sigma)$ は3年目から摂取しないため \[ E(\sigma) = a\xi\frac{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{(2Y+1)/T}}{1-\left(\frac{1}{2}\right)^{1/T}} \] よって年間の被曝線量は以下のようになる。

  被曝線量率
3年目 1.3 μSv/Bq/年
4年目 3.5×10-2 μSv/Bq/年
5年目 9.3×10-4 μSv/Bq/年
6年目 2.5×10-5 μSv/Bq/年
7年目 6.8×10-7 μSv/Bq/年
8年目 1.8×10-10 μSv/Bq/年
9年目 4.9×10-10 μSv/Bq/年
10年目 1.3×10-11 μSv/Bq/年
残り 3.6×10-13 μSv/Bq/40年

従って、セシウム137を毎日2年間摂取し続けたときの50年被曝積算量は 9.5 μSv/Bq となる。

グラフ

冒頭にも見せたが、グラフにすると以下のようになる。

被曝線量率

参考文献