無防備地域宣言

H17/11/23

無防備地域宣言

無防備地域宣言運動全国ネットワーク」という団体がある。彼らは、ジュネーブ条約の第一追加議定書を以下のように引用する。

1.はじめに~無防備地域宣言(運動)とは

そしてこの追加議定書を基にして

4.全国ネットの結成

というような活動をしているらしい。無防備地域宣言をすれば戦争と差別のない平和で豊かな社会になるらしいのだが、果たして実際のところどうなのだろうか。

ジュネーブ条約追加議定書

「無防備地区」は「非武装地帯」と共に第5章にある。ではジュネーブ条約の第一追加議定書[2]の第59条を引用してみよう。

第五章 特別の保護の下にある地区及び地帯
第五十九条 無防備地区
  1. 紛争当事者が無防備地区を攻撃することは、手段のいかんを問わず、禁止する。
  2. 紛争当事者の適当な当局は、軍隊が接触している地帯の付近又はその中にある居住地区であって敵対する紛争当事者による占領に対して開放されるものを、無防備地区として宣言することができる。無防備地区は、次のすべての条件を満たしたものとする。
    1. すべての戦闘員が撤退しており並びにすべての移動可能な兵器及び軍用設備が撤去されていること。
    2. 固定された軍事施設の敵対的な使用が行われないこと。
    3. 当局又は住民により敵対行為が行われないこと。
    4. 軍事行動を支援する活動が行われないこと。

なるほど。「占領しても構わないが、この地域に攻撃してはいけない」のか。この第59条の条件に該当するような事態とはどのような状況なのだろうか。平時に宣言しても有効とはとても思えない。

この宣言が出来るのは「紛争当事者の適当な当局」となっている。一地方公共団体に宣言をする権限はあるのだろうか。しかもこの宣言は以下に引用するように、「敵対する紛争当事者」に対して行われなければならない。

  1. 2の規定に基づく宣言は、敵対する紛争当事者に対して行われ、できる限り正確に無防備地区の境界を定め及び記述したものとする。その宣言が向けられた紛争当事者は、その受領を確認し、2に定める条件が実際に満たされている限り、当該地区を無防備地区として取り扱う。条件が実際に満たされていない場合には、その旨を直ちに、宣言を行った紛争当事者に通報する。2に定める条件が満たされていない場合にも、当該地区は、この議定書の他の規定及び武力紛争の際に適用される他の国際法の諸規則に基づく保護を引き続き受ける。

ちなみに同第51条では民間人への攻撃を禁止している。以下はその導入部分である第48条。

第四編 文民たる住民
第一部 敵対行為の影響からの一般的保護
第一章 基本原則及び適用範囲
第四十八条 基本原則
紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする。

戦争を回避するという目的に対して、本来戦時に行われるはずの無防備地域宣言などしたところで何の効力もないのである。正に平和ボケとしか言いようが無い。私は「無防備地域宣言」をした街には恥ずかしくて住みたくない。

ところで、いったい彼らはなぜ「占領」や「撤退」などの言葉を削除したのであろうか。

有事法制

最後に、有事法制関連法の内の武力攻撃事態対処法[3]を引用しておこう。

(武力攻撃事態等への対処に関する基本理念)
第三条 武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、 相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、当該地方公共団体の地域並びに当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産を 保護する使命を有することにかんがみ、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃 事態等への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する。
(指定公共機関の責務)
第六条 指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態等への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する。

我々は戦争を回避するよう努めなければならない。しかし、有事の際に国民を守れない国家などありえないだろう。

参考サイト

  1. ジュネーヴ諸条約第一追加議定書 (「外務省」より)
  2. 1977年第1追加議定書 (「国際法研究室」より)
  3. 有事法制関連法 (「首相官邸」より)

尚、上記引用文は一部リストタグで体裁を整えているが、一切の改竄はしていない。強調は筆者による。

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