侵略は濡れ衣か

平成21年1月4日

田母神氏の発言が昨年末を騒がせた。やれ文民統制だの何だのと喧しい。

文民統制と憲法

日本国憲法を原理主義的にとらえれば、憲法第九条により軍隊は日本に存在しない事になっている。当然ながら軍人など我が国にはいない。そもそもが文民統制など成り立たないのだ。

国民全員が理解している。自衛隊は軍隊である。だから文民統制の議論が起こるのだ。しかし自衛隊は海外で武力行使が出来ないでいる。必要最小限の武器しか持たせてくれない。他国が攻撃を受けても守ってあげられない。軍隊なのに軍隊として動けない。じゃあ何のための軍隊なのか。

憲法第九条を守るのであれば自衛隊を解散すべきだ。自衛隊を軍隊として位置づけたいのであれば、憲法第九条を改正すべきだ。文民統制の話がしたいのであれば、それは後者の立場のはずである。憲法第九条堅持派が自衛隊に対して文民統制などと言うな。

東京裁判史観と侵略国家

侵略という言葉をセクハラのように「受けた側」の気持ちで定義するのならば、日本は侵略国家であろう。これは間違いない。中国は、日本がアジア侵略、ひいては世界征服を企んだと信じて疑わないからだ。

おっと失礼、これは中国だけではない。東京裁判によれば、いわゆるA級戦犯世界征服の共同謀議で有罪になったわけだから、日本は公式に悪の帝国ということになっている。「平和に対する罪」は分類であって罪状ではない。実際に罪状をみてみよう[文献1]。以下は罪状の共同謀議部分のみを挙げている。

  1. 東南アジア、太平洋、インド洋地域を支配下におこうとした共同謀議
  2. 満州を支配するための共同謀議
  3. 中華民国を支配するための共同謀議
  4. 米国、全英連邦(英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、南アフリカ、インド、ビルマ、マレーなど)、フランス、オランダ、中華民国、ポルトガル、タイ、フィリピン、ソ連に対して侵略戦争を行った共同謀議
  5. 上の第1、第4項目の国や地域と戦争をするための日独伊三国の共同謀議

他の罪状は、上記の国々に対する戦争計画および準備、そして戦争そのものが挙げられている。こんなものは裁判ではない。無茶苦茶だ。

ちなみに、これら侵略の共同謀議は、「五相会議」で1936年に決定した「国策の基準」が根拠らしい。南方進出はあからさまに「平和的手段により」と書いてあるのに。

また、同文献によれば、「八紘一宇」という言葉も侵略思想らしい。Universal brotherhood と日米開戦前から訳されているとも載っている。

侵略、侵略戦争

Wikipediaに侵略という項目がある。この定義のように、武力行使の如何によらずに非自衛目的でかつ一方的に相手国の主権、領土、独立を侵すことを侵略と呼ぶのであれば、租借地を持つことや対華二十一箇条要求などは侵略行為となるであろう。

しかしながら、日中戦争は侵略戦争であったかと問われれば、私は否と答える。義和団事件の際に結んだ北京議定書に基づき、日本軍は中国に駐留していた。不法行為では決してない。これに対して武力攻撃するのであれば、自衛のために応戦あるいは報復攻撃をするのは当然の権利ではないか。国民の抗日感情があったからといって、軍への攻撃を正当化するのは絶対に間違っている。

さらに、上記の定義で言えば「一方的に」の部分があるため日本の行為は侵略に該当しないのは明らかだ。

日本は開戦当初から和平交渉を行っていた。侵略計画が存在しないのだから「中華民国の領土を占領し日本が支配しようとしていた」という解釈には全く同意できない。占領後の軍政は当然のことであり、それは一時的なものである。侵略とは無関係だ。

尤も講和の落としどころを間違え、その後泥沼化した事に対しては失策だと思うが、もちろんこれも侵略かどうかとは関係ない。 ちなみに泥沼化した理由の一つに、中華民国を米英が支援していたという事実があるのは誰もが知っていることである。この意味で米英ソなどの国々とも既に戦争状態にあったことを付け加えておく。

参考文献

  1. 別冊歴史読本 A級戦犯 ― 戦勝国は日本をいかに裁いたか」 (2005) 新人物往来社, pp36-37.