昭和天皇の人間宣言

平成21年4月29日

昭和天皇が神格を否定したとされる、いわゆる人間宣言を読んでみた。正式な名称はなく、件名は「新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ」と言うらしい。文はWikisourceのものから使用し、片仮名を平仮名に、正字を新字に、仮名遣いを現代仮名遣いに変えた。原文や現代語訳が読みたい場合は、先述のWikisourceを参照していただきたい。

<H21-09-22補足>
全文の最初の段落にある、官民拳げて官民挙げての間違い。これは上記Wikisource(H21-09-22現在)を使用したことによる。「官報号外 昭和21年1月1日 詔書[人間宣言]」を参照。
<補足終わり>

全文

ここに新年を迎う。顧みれば明治天皇明治の初国是として五箇条の御誓文を下し給えり。曰く、

叡旨(えいし=天子のお言葉、お考え) 公明正大、また何をか加えん。朕はここに誓を新たにして国運を開かんと欲す。すべからくこの御趣旨に則り、旧来の陋習を去り、民意を暢達し、官民拳げて平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、もって民生の向上を図り、新日本を建設すべし。

大小都市の被りたる戦禍、罹災者の艱苦、産業の停頓、食糧の不足、失業者増加の趨勢等は真に心を痛ましむるものあり。然りといえども、我国民が現在の試練に直面し、かつ徹頭徹尾文明を平和に求むるの決意固く、よくその結束を全うせば、独り我国のみならず全人類の為に、輝かしき前途の展開せらるることを疑わず。

それ家を愛する心と国を愛する心とは我国において特に熱烈なるを見る。今や実にこの心を拡充し、人類愛の完成に向かい、献身的努力を効すべきの秋(=時)なり。

思うに長きにわたれる戦争の敗北に終りたる結果、我国民はややもすれば焦燥に流れ、失意の淵に沈淪せんとするの傾きあり。詭激の風漸く長じて道義の念すこぶる衰え、為に思想混乱の兆しあるは誠に深憂に堪えず。

然れども朕は爾等国民と共に在り、常に利害を同じうし休戚を分たんと欲す。朕と爾等国民との間の紐帯は、終始相互の信頼と敬愛とに依りて結ばれ、単なる神話と伝説とに依りて生ぜるものに非ず。天皇をもって現御神(あきつ-み-かみ)とし、かつ日本国民をもって他の民族に優越せる民族にして、ひいて世界を支配すべき運命を有すとの架空なる観念に基くものにも非ず。

朕の政府は国民の試煉と苦難と を緩和せんが為、あらゆる施策と経営とに万全の方途を講ずべし。同時に朕は我国民が時艱に決起し、当面の困苦克服の為に、また産業及び文運振興の為に勇往せんことを希念す。我国民がその公民生活に於て団結し、相倚り相扶け、寬容相許すの気風を作興するにおいては、能く我至高の伝統に恥じざる真価を発揮するに至らん。この如きは実に我国民が人類の福祉と向上との為、絶大なる貢献を為すゆえんなるを疑わざるなり。

一年の計は年頭に在り、朕は朕の信頼する国民が朕と其の心を一にして、自ら奮ひ自ら励まし、もってこの大業を成就せんことをこいねがう。

御名御璽

昭和二十一年一月一日


どこが人間宣言?

いわゆる人間宣言の部分は、後半にある「~に非ず。~に非ず。」の後ろである。

朕と爾等国民との間の紐帯は、終始相互の信頼と敬愛とに依りて結ばれ、単なる神話と伝説とに依りて生ぜるものに非ず。
天皇をもって現御神とし、かつ日本国民をもって他の民族に優越せる民族にして、ひいて世界を支配すべき運命を有すとの架空なる観念に基くものにも非ず。

前の方は「天皇と国民との間の絆は、単なる神話や伝説などによって生じているのではない」と言っている。

続いて「(天皇と国民との間の絆は、)『天皇は現人神であり、かつ、日本国民は他の民族より優秀であるため、ひいては世界を支配すべき運命にある』という架空の観念に基づいているのでもない」とある。「世界を支配すべき運命にある」という架空の観念に基づいているのではないということしか述べられていない。

さて、どこが「人間宣言」なのか。この部分は「天皇と国民との間の絆は、~ではない。~でもない。」という文である。

少なくともこの文は「天皇が現人神であるかどうか」「日本国民が他の民族より優秀かどうか」については何も言及していないのである。「人間宣言」は無理矢理な解釈である。

草案はGHQが作成したらしいが、こうして出来上がったものは、五箇条の御誓文を掲げ、日本の民主主義は (戦後GHQにもたらされるのでなく) 明治から始まることを宣言し、日本を立て直そう、大変だけど頑張ろう、天皇は国民と一緒にいるよ、政府も頑張れよ、という内容である。

正に一年の計は年頭にあり、だ。