今日のロンドン力

平成21年9月17日

更新面倒くせーなーと思っていたら、いつのまにか政権交代ときた。まあそれはおいおい。

さて、今回は分子間力のうちの一つ、ロンドン力の話だ。分散力というのが標準かも知れない。

ひょんなことでロンドン力を調べることになったのだが、ググっても納得のいく説明がない。Wikipedia も然り。

で、その Wikipedia だが、左コラムにある Wikipedia 外国語版へのリンクが実は便利であることに最近気づいた。日本語版で不十分な説明であっても、英語版だともう少し詳しく解説してあったりする。

私はロンドン力について調べた。英語版 Wikipedia によると、それは量子力学における2次の摂動として得られるらしい。この瞬間に引力的振る舞いをすることが明らかになったわけだが(ここの読者にとっては自明だが、基底エネルギーにおける2次の摂動効果は、必ずエネルギーを下げることが導かれる)、それにしてもしっくり来ない。

私は物理化学の本を調べた。定性的な説明はあるのだが、「ロンドンは計算をした」と述べて結論だけ書いてあるものばかりであった。

八方塞がりの状況であったがしかし。20世紀初頭は「三流が一流の仕事をした時代」と言われる。誰が言ったか知らないが、私にとってその時代の著書は名著だらけのように思えてならない。

そしてシュポルスキーの出番である。学生時代には、なんだよ所詮は前期量子論じゃねーかよ、などと思ったものだが、実は日本語版初版は1966年だったりする。朝永、ファインマン、シュヴィンガーがノーベル賞を受賞した翌年である。

で、そのシュポルスキー第 I 巻。ちゃんとロンドン力が載っていた。素晴らしい。

詳細はこうだ。

分子を2つ用意する。それぞれ陽子が1つ、電子が1つ。陽子は重たいので固定。電子は、それぞれ陽子を中心として振動することができる。つまり、安定軌道の周りを「電子雲」が揺らいでいるというイメージだ。波動関数を電子雲というのは好きではないが。

この系に対して、ポテンシャルエネルギーを計算して多重極子展開をすると、電子の「ずれ」による効果は、四重極子で初めて現れる。この最低次の項は、双極子×双極子÷分子間距離の3乗という形になっている。したがって「双極子双極子相互作用」と言えるわけだ。

この相互作用による2次の摂動なので、距離の6乗に反比例する引力となるわけだが、話はこれで終わらない。これは摂動論でなく厳密に解ける。

それぞれの陽子に束縛されている電子は、安定軌道の周りを振動するので、系は調和振動子的振る舞いをする。それに加えて、双極子相互作用が加わる。この項は、それぞれの電子の変位の積で与えられる。

すなわちこの系におけるポテンシャルは、変位の2乗と変位の積で与えられるため、容易に対角化でき、容易に解が求められる。

こうして、双極子相互作用によって零点エネルギーが下がるという結論が得られる。これは量子力学的効果である。零点エネルギーのない古典論であれば、当然引力的効果は生じない。希ガスのような極性を持たない物質間にも分子間力が働くのは、まさに量子論のおかげである。零点エネルギーは「実在」する物理量である。

さて英語版 Wikipedia によると、ロンドンの論文以降に別の解釈が現れたようだ。「瞬間的な」電荷分布の偏りによって、近傍の分子が分極を誘導されて引力を及ぼすと。

しらんがな。量子論的揺らぎをどう表現するかは勝手だが、「瞬間双極子」だの何だのと、誤解をまねく描像を用いている。観測するわけじゃないんだから、瞬間的にどうこう言うようなことではないだろう。

まあ何にせよ、ファンデルワールス力が量子論的な作用だというのは面白かった。高校時代から化学はちんぷんかんぷんだったのだが、少しずつ分かってきたのは嬉しい。

(追記)これは泥酔しながら書いたもので、私のあずかり知らぬ文が含まれている。まともに読めるように一部修正したが、読み辛い点は了承願いたい。じゃあしらふで書いたものは読みやすいのか、などと言ってはいけない。

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