冬。それは鍋の季節。鍋と言えば欠かせないのがキノコである。
先日、キノコ尽くしをしようとスーパーで物色していたところ、見たことのないキノコを見つけた。シメジと名称を偽られている可哀相なヒラタケの隣に、食用菊のような商品が並ぶ。彼の名は「ヤマブシタケ」だ。
おおっと、話は最後まで聞こうぜ。google で検索したところで、健康食品サイトしか出てこねぇぜ。
この冬一番に作った鍋、鶏野菜味噌。その一員として採用したのが彼だ。見た目はある意味気持ち悪いかもしれない。我々日本人が想像するキノコと別物の風貌だからだ。上述したように、カサに相当する部分はなく、ヘタから先端に掛けて 0.5 mm 幅の、それはまるで菊の花のようにフワッと広がっている。
味噌鍋のせいであろうか、仕上がりは油揚げのようになる。とは言ってもキノコはキノコ。味は菌類のそれである。そう、つまりこれだ。汁を良く吸うキノコ。味の染み込むキノコ。
アガリスクを超えた? はあ? 関係無い。アガリスク茸など食べた事ないので知ったことではない。それは食べたその時に評価しよう。今はヤマブシタケである。ヤマブシタケ。これだ。ヤマブシタケだ。うむ。旨い。旨いぞ。ようし、いいぞ。そうだ。その調子だ。ああ、違う、右、右だ。そう。ゆっくり進むんだ。そうだ、良い子だ。いいかい? オレが合図をしたら飛ぶんだ。いち、にぃ、・・・
タカシ、聞こえるか? オレだ。マサヒコだ。覚えてるか? あれから5年も眠ってたんだぞ、お前。・・・ああ。ケイコは死んじまったよ。ケイコだけじゃない。ヒロシも。マサヨも。そうだ、全員だ。もう、お前とオレしかいないんだよ。もう・・・世界は・・・終わりなんだ・・・。何だかもう眠いや。タカシ、もういいだろう? オレ達、十分やったよ。みんなに会いに行こうぜ。タカシ、もうオレ寝るぜ。じゃあな。
それは遠くまで抜けるような雲一つ無い清々しい朝だった。人類最後の日だった。