研究室へ向かう途中のこと。自転車をいつものようにへろへろこいでいたら、T字路から車の陰が。
その車の出てきたT字路はマンションなどから抜ける道になっているところで、あまり車の通りはない。ただ丁度そのときはたまたま僕が死角になるように違法駐車があったわけだ。
車は一時停止線付近にいたのでかなりの徐行で、僕としても危険は回避できたはずの事故だった。
「あー車が来てるなー。ちょっと死角になってるけど、まぁ(僕のこと)見えてるでしょ」
「このままだとぶつかるけど、(ドライバーは僕の存在)ちゃんと分かってるよね。ちゃんと減速してるし。」
「あれ? 止まらないの? ぶつかっちゃうよ。」
「・・・え? あ、あなた、そのお姿はもしかしてベンツ?」
「ま、まさかベンツだからつっこんでくるの?」
「ぶつかるって! ほらぶつかるって!」
がしゃ。
停車するベンツ。自転車後輪付近をどつかれた僕は自転車よりもベンツの方が気になっていた。ベンツの状態は大丈夫だろうか・・・。ドライバーは・・・。無言の圧力に押しつぶされそうになる。そのとき、車内からグラデーションのかかったサングラスをかけた色黒で半袖シャツに短パンのおっさんが出てきて、
「どこ見とんじゃいワレーっ!!!」
と罵声を浴びせ掛けられると覚悟していたのだが、出てきたのは30半ばくらいの細身の女性だった。
「大丈夫ですか? 自転車壊れてないですか? 怪我は?」
とてもいい人だ(僕の妄想との相対比)。僕は「大丈夫です」と繰り返してとにかくその場を立ち去った。
「自転車壊れてないですか? 走らせて見て大丈夫かみてください」などと親切極まりない対応(飽くまで僕の妄想との比較)してくれたのだから、そんな彼女からお金をとろうなんて極悪なことはできない。
でもその後、自転車後輪が少し歪んでるのに気づいた。がーん。これなら連絡先くらい聞いておけばよかったっ!