[独り言の部屋] < [TOP]

1999年7月20日

「トンデモな映画」

だいぶ前になるが、WOWOW で古いB級映画が流れてた。タイトルは確か「地球最大の危機」とかそんなだったと思う。話もほとんど忘れてしまったが、あまりにも面白かったので紹介しよう。


世界中でもっとも深く潜ることができる最新鋭の原子力潜水艦が北極付近で「処女航海」をしていた。提督、艦長そして艦長の婚約者である提督の秘書をメインに物語は進んでいく。航海中突然、水温気温ともに上昇し始めた。一体何が起こったのか。

艦長は崩れた氷山の上に人が倒れているのを発見した。救助したところ彼は科学者で、北極で生態の調査をしているところだった。仲間を助けなければ。

しかし艦内の最高権力者である提督は非情にも本部へ戻れと命令した。この異常な温度の上昇は局地的なものではなく地球全体で起こっているのだった。地球を取り巻くバン・アレン帯が燃えているのが原因だったのだ。科学者でもある提督は早急に本部へ戻り、対策を練らなければならなかったのだ。しかし艦長は遭難者の救助を中止させた提督に不信感を持ち始めた。

本部では識者たちが既に集まっていた。彼らは科学者の権威に地球の運命を委ねた。バン・アレン帯の発火は、ある温度まで上がればそれ以上にはならない。燃え尽きるまでおとなしくしていよう、というのが彼らの案だ。その中で遅れてきた提督だけが反論した。バン・アレン帯の「へそ」に核爆弾を打ち込めばその爆風で鎮火する、というのだ。バン・アレン帯がある温度に達したときに、タイミングよく「へそ」に発射しなければならない。もちろん科学者たちは提督の意見には耳を傾けなかった。そのようなことをすれば更に事態は深刻になるだろう、と。

急がなければ核爆弾の発射ポイントまでたどり着かない、と提督は潜水艦の出航を命じた。それを阻止しようと警察隊が艦橋に駆け上る。提督は彼らがいるにも関わらず潜水させた。そんな危険な行為をした提督に艦長は不信感を募らせた。そもそも提督の説は正しいのだろうか?

突然の出航だったので、北極で救助された科学者はまだ艦内にいた。地球滅亡の危機を目の前にした乗組員たちは潜水艦という閉ざされた空間の中にいる状況の中、精神的な疲労が溜まっていった。科学者はクリスチャンだったので、地球の終わりを神の意志としてむしろ肯定的に受け止めていた。彼は乗組員たちに教えを説いた。

もちろん提督ばかりでなく艦長も科学者のその行為を制止した。我々は滅亡を阻止しようとしているのである。科学者は滅亡の阻止を阻止しようと企んでいるのだ。

乗組員の疲れが溜まっていき、何人かは医務室で横になっていた。しかし提督はそれを許さなかった。怠慢であるとして殴ったのである。提督は冷静な判断ができなくなっていると艦長は確信し始めていた。

科学者の権威たちの説いた最高温度はとっくに越え、自然鎮火の望みはなくなった。艦内では科学者は滅亡を肯定し乗組員は提督に不信感を抱いてきている。そんななか提督に脅迫状が届いた。この航行を止めなければ殺す、と。しかしこの文書は提督の机にあるタイプライターで打たれていた。提督は無意識のうちに自分で自分に脅迫状を送ったのだ。艦長は医師の見解も得て、提督はおかしくなってしまったと断定した。だとすると提督の説である、バン・アレン帯の「へそ」に核爆弾を打ち込むという方法も間違っているのでは? すぐに中止させなければ!

この潜水艦には艦長の婚約者である秘書も乗っていたのだが、彼女は放射能汚染の危険をかえりみず原子炉へ向かった。原子炉を止めれば作戦は失敗するだろう。

艦長が提督を拘束しようとしたとき、なんと科学者が爆弾を持って騒ぎ出した。今すぐ潜水艦を浮上させ作戦を中止せよ、さもなくば潜水艦ごと爆破する! 我々は滅亡するのだ。神に逆らってはいけないのだ。発射ポイントまであと数分。科学者は既に威力の弱い爆弾を一つ爆破していた。この衝撃で原子炉へ向かった女性は気を失ってしまい、失敗に終わった。

もう時間がない。提督が科学者を説得している間、艦長が潜水艦の外に出て手動で核爆弾を発射した。核爆弾は見事「へそ」に命中、バン・アレン帯の炎は消し去った。地球滅亡の危機から逃れられたのだ! 潜水艦を浮上させ、晴れ上がった空を見ながら全員が艦橋で抱き合って喜んでいる。




...なんていうか、話がむちゃくちゃ。科学者の権威の説も提督の説もどちらも根拠が良く分からないし、そもそもバン・アレン帯が火事ということ自体がおかしい。

しかしこの映画の面白いところはそういう科学的なところではない。提督が狂ってしまったことがエンディングで何も関わっていないのである。

あれだけ、あれだけ伏線を張っておきながら、艦長があんなに提督のことを疑っていたのに、そしてついには艦長は核爆弾の発射を止めさせようとしてたのに、そんなこと全くお構いなしで、急げ、爆弾発射って!

こういうのも「どんでん返し」と呼ぶのだろうか。まぁとにかくこういう意味で面白い映画を見たのは始めてである。とても貴重な体験をした。






[独り言の部屋] < [TOP]